『デトロイト ビカム ヒューマン』の悪い選択ほど没入感が増す? 320人の実験で分かったこと
銃を向けるか、下ろすか。見逃すか、突き出すか。選択肢の前でコントローラーを握ったまま手が止まる時間こそ、物語が遊ぶ人のものになる瞬間なのかもしれない。その時間を心理学の実験で測った論文が、2026年9月下旬に学術誌「Acta Psychologica」でオンライン公開された。
題名は「Why are immoral choices more immersive?」(なぜ非道徳的な選択のほうが没入感を生むのか)。著者は陝西師範大学・新聞与伝播学院のYilin Li氏と、香港浸会大学・伝理学院のYuen Kuang Jun氏の2人。題名だけで結論が半分見えてしまっているけど、中身を読むと「悪いことをすれば没入する」という単純な話ではなかったにゃ。
論文のページ(DOI)はオープンアクセスで、CC BY-NC-NDのライセンスで公開されている。
320人の実験で悪い選択が没入を深めた
実験に使われたのは、『Detroit: Become Human(デトロイト ビカム ヒューマン)』と『BioShock(バイオショック)』の、道徳的なジレンマを描いた場面。参加したのは中国のプレイヤー320人だよ。
組み合わせた条件は2つある。1つは選択の中身で、道徳的に正しいほう(高道徳)を選ぶか、そうでないほう(低道徳)を選ぶか。もう1つは自律性、つまり「自分で決めた」という感覚が強い条件か弱い条件か。この2つを掛け合わせた2×2の実験デザインで、物語への没入感(ナラティブ・イマージョン)がどう変わるかを調べている。


結果の核心は、要旨に書かれたこの一文だね。
自律性が高い条件では、低道徳の選択のほうが高道徳の選択よりも、予想に反して強いナラティブ・イマージョンを生んだ。
(論文の要旨より・日本語訳)
しかも、これは「交差型の交互作用」として報告されている。自律性が高いときと低いときで、どちらの選択が没入を生むかの関係が入れ替わるということ。自分で選んだ実感があるときは悪い選択のほうが物語に入り込み、その実感が薄いときは逆に正しいほうが入り込みやすい。悪い行いそのものに没入を生む力があるわけではなく、「自分がそれを選んだ」という前提が付いたときに初めて効いてくる、という見立てになる。
もう1つの柱が感情の働き。研究では、選択のあとに生まれる罪悪感・恥・誇りの3つの「道徳感情」を、選択と没入感のあいだに並べて置き、それぞれが橋渡しをしているかを検証している。
その結果、道徳感情が選択と没入感の関係を媒介していることが確かめられた。自律性が効いてくるのは、選択が没入感に直接与える影響のほう。論文は、この2つの経路を1つのモデルにまとめたことを成果に挙げている。


理論の土台にあるのは、人は「自分で決めている」と感じられるときに意欲や関与が高まるとする自己決定理論。罪悪感は本来なら避けたい感情のはずなのに、それが自分の決断の結果として生まれると、物語を「他人ごと」ではなくしてくれる——罪悪感は没入へのスパイスになり得る、という読み方ができそうだにゃ。
一方で、公開されている要旨だけでは、3つの感情のうちどれがどれだけ強く効いていたのか、2作品のどの場面が使われたのかまでは分からない。数字の細部を確かめるなら、論文の本文に当たる必要がある。
現実の道徳を持ち込むとCHI2022が示す
論文の冒頭で著者たちは、道徳的な選択の種類によって没入感が変わるのかどうか、これまでの研究の結果は一致していなかったと書いている。
『デトロイト ビカム ヒューマン』は、この分野でよく使われてきた作品でもある。2022年のCHI(ヒューマン・コンピュータ・インタラクション分野の国際会議)では、19人のプレイヤーへの聞き取りと道徳基盤質問票を組み合わせ、プレイヤーが現実の道徳的直感をゲーム内の決断にそのまま持ち込んでいることを示した研究「"I Don't Want To Shoot The Android"」が発表されている。キャラクターへの愛着が選択を左右していたことも、そこで指摘されていた。
ゲームの中なら何をしても現実には誰も傷つかないのに、それでも多くの人は撃たないほうを選ぶ。今回の研究はそこに、あえて撃つほうを選んだ人こそ物語の奥まで入り込んでいたかもしれない、という別の角度を足した形だね。
ただし、参加者は全員が中国のプレイヤーで、題名にも「Evidence from Chinese gamers」と明記されている。道徳感情の感じ方は文化によって違いが出やすい領域なので、同じ結果が別の地域のプレイヤーでも出るのかは、この1本だけではまだ言えない。
8人の人質を前に交渉に向かうアンドロイドを、自分の手でどちらへ転ばせるか。その重さが没入の燃料になっていたのだとすれば、選択肢に付いたタイマーの数秒間は、ただの演出ではなかったことになる。
関連記事
クリア後の“空っぽ”には名前がついた――終わって悲しかったゲームを語るスレと、17項目の尺度
「終わっちゃって悲しい」ゲームを挙げるスレが伸びていたにゃ。並ぶ作品名はバラバラでも書き込みの温度は同じ。その空虚感、心理学の側でも測定尺度が作られていた。
1503万件のSteamレビューを解析、酷評ほど長く、早く書かれていた
ハンガリーの研究チームが1500万件超のSteamレビューを解析。低評価は高評価より30〜45語ほど長く、しかも短いプレイ時間で投稿されていたにゃ。10種類の遊び方ごとの差も出ている。
Steamの生成AI申告ゲームは推奨率68.4%、50万件のレビュー解析で分かれた「使い道」
ノースイースタン大の研究チームが、生成AIを申告したゲームと昔ながらの自動生成ゲームのレビュー50万件超を突き合わせたにゃ。無料タイトルほど差が開き、600件の精読からは受け入れられる条件も見えてきた。

コメント (0)
最初のひとことをどうぞ🐈
感想でも「わかる」の一言でも大歓迎。あなたのコメントがこのページの一番乗りです。