『クーデルカ』は壊れる武器とマス目で怖がらせた PS1のホラーSRPGが『シャドウハーツ』に残したもの
1898年10月31日、ウェールズの海沿いに建つネメトン修道院。PlayStation向けの『クーデルカ』は、この一晩の出来事だけを描いたRPGだ。発売は1999年12月16日で、販売はSNK。開発したのは、スクウェアで『聖剣伝説』シリーズの音楽を手がけた菊田裕樹さんが、元スクウェアのスタッフと1997年に立ち上げたサクノスで、この作品がデビュー作になる。
当時のRPGの主流は剣と魔法の冒険だった。そこへ出てきたのが、実在の土地と年代を舞台に、修道院の地下に埋もれた過去を掘り起こしていくゴシックホラーだったわけだ。しかもそのホラーを、アクションではなくマス目のターン制バトルで作ろうとした。いま振り返っても、かなり思い切った組み合わせだと思うにゃ。
『クーデルカ』の作り手と霊能者は誰か?

菊田さんの役割は、監督、プロデューサー、脚本、作曲。「大人向けの暗いホラーRPGを作りたい」という思いが出発点で、当時のRPGを子どもっぽく、行き詰まっていると感じていたことがきっかけとされている。キャラクターデザインは漫画家の岩原裕二さん、アートディレクターは町田松三さん。この町田さんが、のちに『シャドウハーツ』で中心に立つことになる。
主人公は霊能力を持つロマの女性、クーデルカ・イアサント。修道院で出会う冒険家のエドワード・プランケットと、司教のジェイムズ・オフラハティの3人で探索を進める。
演出にはとにかくお金と手間がかかっている。モーションキャプチャーの収録は1998年1月、米サンタモニカのスタジオで行われた。台詞はすべて英語で、日本版も吹き替えではなく英語音声に日本語字幕という作り。キャラクターの口の動きを台詞に合わせるリップシンクも、当時の国産ゲームではまだ珍しかった。CGムービーでは、登場人物が海外ドラマのように英語で言い争い、ささやき合う。この手触りそのものが、ほかのPS1のRPGとの違いになっていたね。
発売前後には、岩原さん自身の手によるコミカライズが角川コミックス・エースから全3巻で出ている。ゲームとは別の、世紀末のロンドンを舞台にした物語だよ。
戦闘に入ると、画面はマス目で区切られた盤面に切り替わる。味方3人と敵が配置され、1人ずつ「マスを移動して、行動する」を繰り返すシミュレーションRPG風の形式だ。
ここで効いてくるのが武器の耐久度。武器は使い続けると壊れる。回復手段も潤沢とは言えない。すると盤面での一手一手が、そのまま手持ちの消耗に響いてくる。どの武器で殴るか、誰を前に出すかを考えるほど、次の戦闘まで持つのかという不安が頭から離れない。一般的なSRPGの「部隊をうまく動かす楽しさ」を、「持ちこたえられるかの怖さ」へ向け直した作りといえる。
育成は、戦闘で得た経験値と、レベルアップで入るポイントを能力値に振り分ける方式だ。誰を殴り役にして、誰に魔法を任せるか。3人の役割はプレイヤーの振り方しだいで大きく変わる。自由度が高いぶん、偏った育て方をすると後で行き詰まる危うさも抱えていた。
探索パートは固定カメラ。プリレンダリングで描かれた修道院の部屋を、3Dのキャラクターが歩き回る。鍵のかかった扉、どこかに隠された鍵やレリーフ、日記や書物に残った手がかり。行ける範囲を少しずつ広げていく構造は、同時代のサバイバルホラーの文法そのものだ。
違うのは、敵がランダムエンカウントで出てくること。配置が決まっていれば、覚えて避けることもできる。けれどこの作品では、謎解きのために同じ廊下を往復しているだけで、いつ戦闘が始まってもおかしくない。そして戦うたびに武器は削れていく。「歩くこと自体が消耗になる」という緊張は、RPGの仕組みとホラーの仕組みが噛み合ったところから生まれていた。
一方で、戦闘の遅いテンポやバランスは発売当時から賛否が分かれた。海外の評価をまとめたGameRankingsでは60%前後にとどまっている。雰囲気と物語は高く買われ、システムは人を選んだ。異色作らしい評価だったとも言えるね。
2001年『シャドウハーツ』は何を継ぐ?
菊田さんは発売後にサクノスの社長を退いた。20世紀を通してクーデルカの一族を追う続編の構想もあったとされるけれど、それは形にならなかった。
代わりに同じ世界を引き継いだのが、2001年6月28日にアルゼから出たPS2の『シャドウハーツ』だ。監督と脚本を務めたのは、『クーデルカ』でアートディレクターだった町田松三さん。音楽は廣田秀孝さんが中心になって手がけた。物語は『クーデルカ』の「悪いほうの結末」を正史としてその後に続き、舞台は1913年へ移る。主人公は、魔物の力をその身に宿す青年ウル・ヒューガだ。
@youtube は公式の映像が見つからなかったので置かないにゃ。
引き継いだものと、捨てたものははっきりしている。
- 引き継いだもの:クーデルカ本人と、その息子ハリー(Halley Brancket)、不死の哲学者ロジャー・ベーコンといった登場人物。実在の歴史や事件にオカルトを重ねる語り口。怪物の造形に漂う、救いのない陰鬱さ
- 捨てたもの:マス目の戦闘と武器の耐久度。固定カメラで歩き回るサバイバルホラー流の探索
戦闘の中心に据えられたのは「ジャッジメントリング」。円盤の上を回る針が色の付いた区間を通る瞬間にボタンを押す、タイミング式のシステムだ。攻撃にも魔法にも、戦闘外の一部の行動にも使われる。もうひとつ、キャラクターにはターンごとに減っていく「SP(正気度)」があり、尽きると暴走して操作を受け付けなくなる。ウルは倒した魔物の魂を取り込み、その姿に「フュージョン」して戦う。

マス目の盤面は消えた。それでも、「行動するほど何かがすり減っていく」怖さは、武器の耐久度から正気度へと形を変えて残っている。ジャッジメントリングで押し損じればその一手が無駄になる、という手応えもそうだ。『クーデルカ』の緊張を、PS2時代のテンポで遊べる形に組み直した。そう読むと、2本の距離はぐっと縮まる。

シリーズはその後、『シャドウハーツII』(2004年)、『シャドウハーツ・フロム・ザ・ニューワールド』(2005年)と続いた。開発元は途中でノーチラスへ名を変え、2007年にアルゼと合併してゲーム開発から離れている。1898年の修道院の一夜から始まった系譜は、3本の続編を経て20世紀初頭の世界を回ったところで途切れた。現行機への復刻は、いまのところ発表されていない。


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