EAのCEO報酬はカプコン会長の10倍超、日本のゲーム大手にレイオフが少ない背景を開示資料で比べる
2022年3月末のカプコンの連結従業員数は3,206名。それが2026年3月末には3,976名になった。4年で770人増えた計算で、このうち開発職は2,369名から3,011名に増えている。
同じ4年間、欧米のゲーム業界では人員削減がほとんど止まらなかった。業界のレイオフを集計している「ASGC Games Industry Layoffs Tracker」の8月中旬の集計では、2026年に確定した削減だけで1万人を超え、影響を受けた人のおよそ8割が北米に集中しているにゃ。
海外では、日本の大手メーカーにレイオフが少ない理由として「開発チームが小さい」「経営陣の報酬がけた違いに低い」という見方も出ている。チームの規模は外から確かめにくいけれど、報酬と離職率なら各社の開示資料に数字が載っている。そこで、実際に並べてみた。
カプコンの第47期有価証券報告書には、人的資本の指標が5年分まとめて載っている。単体・正社員の離職率は2022年3月期の5.4%から毎年下がり、2026年3月期は2.6%。そのうち自己都合による退職は1.9%で、会社が掲げる「3.0%程度」という目標を下回った。
平均年間給与(単体)も712万7,000円から985万2,000円まで上がっている。2022年に正社員の平均基本年収を約30%引き上げたのをはじめ、報酬制度を何度か改めてきた結果だよ。会社自身も、離職率が下がった理由を「報酬制度改定および働きやすい環境づくりへの取組み」と説明している。
任天堂の第86期有価証券報告書を見ると、単体の従業員3,084人の平均勤続年数は14.6年。カプコンの11.2年よりさらに長い。グループ全体では8,666人が働いていて、平均年間給与(単体)は約982万円。こちらも社員が長く勤める会社の数字だね。
人を減らすどころか増やし、しかも辞める人が減っている。少なくともこの2社については、「日本のメーカーは人員削減が少ない」という見方と開示資料の数字は食い違っていない。
EAとカプコン、経営陣の報酬を比べる
もう一つの論点が、経営陣の報酬だよ。
Electronic Artsが7月28日付で出した2026年3月期の年次報告書の修正版(Form 10-K/A)によると、CEOのアンドリュー・ウィルソン氏の報酬総額は3,864万9,984ドル。基本給は130万ドルで、大部分は2,848万ドル分の株式報酬が占める。ほかに業績連動の現金報酬が650万ドル、警備費用や社用機の私的利用などの「その他」が約237万ドルあった。前年度の3,053万ドル、前々年度の2,564万ドルから2年続けて増えている。
同じ書類に、EA社員の報酬の中央値は12万6,612ドルと書かれている。CEOの報酬はその305倍だよ。
日本の上場企業が個別に開示するのは、報酬が1億円以上の役員だけ。カプコンでは6人がこれに当たり、いちばん多いのは辻本憲三会長の4億6,000万円、次が辻本春弘社長の3億4,500万円だった。任天堂では古川俊太郎社長の3億1,800万円が最高額で、宮本茂氏の2億4,600万円がそれに続く。
EAのCEOの報酬を1ドル140円で円に直すと、およそ54億円。カプコン会長の10倍を超えるにゃ。
| 会社(2026年3月期) | 最も報酬が多い役員 | 報酬総額 | 社員の給与水準 | 倍率(目安) |
|---|---|---|---|---|
| Electronic Arts | アンドリュー・ウィルソンCEO | 約3,865万ドル | 中央値 約12.7万ドル | 305倍 |
| カプコン | 辻本憲三会長 | 4億6,000万円 | 平均 985万2,000円 | 約47倍 |
| 任天堂 | 古川俊太郎社長 | 3億1,800万円 | 平均 約982万円 | 約32倍 |
倍率の見方には注意がいる。EAが開示した305倍は、全世界の社員の中から選んだ「中央値の社員」との比較。日本の2社は開示されている単体の平均年間給与で割っただけの目安だよ。株式報酬の計上方法も日米で違うから、厳密な比較ではない。それでも、数十倍と数百倍の差が物差しの違いだけで生まれたとは考えにくい。
役員に多く払う会社がそのぶん社員を切る、とまで言える材料はこの表にはない。ただ、報酬の大部分が株価に連動する設計だと、経営陣の関心が短期の株価やコスト削減に向きやすい。海外で経営陣の報酬がレイオフの話題と並べて語られるのは、そうした事情があるからだと思う。
削るのは海外、スクエニは開発を日本へ
とはいえ、日本のメーカーが人を減らさないわけではない。削る場所が国内ではなく海外になりやすい、というのが実情に近い。
スクウェア・エニックス・ホールディングスは、2025年11月6日の中期経営計画の進捗報告で「海外パブリッシング組織の抜本的構造改革」を打ち出した。本社グループのパブリッシング組織を11部署から4部署に再編して、年30億円以上の費用削減を見込む内容だよ。開発体制についても、海外の開発スタジオを閉じて開発拠点を日本に集める方針に切り替え、2026年3月期に118億円の組織再編費用を計上する見込みと示している。同じ資料では、生成AIを使って2027年末までにQA・デバッグ作業の70%を自動化する目標も掲げていた。
資料には削減する人数は書かれていない。ただ、海外の組織を減らし、日本に集める方向であることははっきりしている。国内の中核チームを守り、調整は海外拠点で行う形だね。
もう一つの前提が法律だよ。日本の労働契約法第16条は、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」解雇を無効と定めている。業績の悪化を理由に正社員をまとめて解雇するのは、日本ではもともと難しい。欧米と同じ尺度で「レイオフの件数」を比べると、この制度の差もそのまま数字に表れる。
整理すると、日本の大手メーカーにレイオフが少ない背景には、少なくとも3つの要素が重なっている。1つ目は解雇に厳しい法制度。2つ目は、人員を調整するときに海外拠点から手を付ける経営判断。3つ目が、欧米の大手と比べて一桁から二桁小さい経営陣の報酬だよ。
カプコンと任天堂の数字には、業績の好調さも反映されている。カプコンの従業員1人当たり営業利益は2022年3月期の約1,338万円から2026年3月期は約1,894万円に増えた。任天堂も2026年3月期に売上高2兆円を超えている。稼げている会社は人を削る必要がない。これもまた、単純だけれど外せない理由だにゃ。
逆に言えば、業績が傾いたときにこの人員構成を保てるかどうかは、まだ試されていない。好調な時期に人を増やし続けたカプコンの3,976人という数字が、次の不況で守られるかどうか。それが、日本型の人の抱え方を測る本当の試金石になる。
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