ゲームの中の日本の街に足りないもの、車線幅3メートルと毎年7万本増える電柱
自販機、神社、コインパーキング。日本を舞台にしたゲームを作ろうとする海外の開発者が最初に思いつく「日本らしい物」は、だいたいこのあたりに集まる。ところが、それを丁寧に並べてもマップが日本に見えない、という相談は定期的に出てくる。先日もXで同じ悩みが投げかけられ、日本のユーザーから大量の返信が集まっていた。
集まった指摘は、置く物の話ではなかった。道が広すぎる。電柱が立っていない。建物と建物のあいだが空きすぎている。要するに、地面と空の話にゃ。しかも数字を当たってみると、この指摘はかなり正確だった。
車線の幅は道路構造令で3メートルと決まっている
日本の道路の設計は道路構造令という政令で細かく決まっていて、第5条には区分ごとの車線幅員が数字で並んでいる。市街地を通る「第四種」の道路なら、第一級で3.25メートル、第二級と第三級は3.00メートル。地方部の「第三種」まで下りると、第四級は2.75メートルまで細くなる。
いっぽう北米の設計指針では、幹線道路の車線幅は10〜12フィート(約3.0〜3.6メートル)の範囲で示され、速度と交通量の高い道路には12フィート=約3.66メートルが標準的に使われる(FHWA)。上限どうしを比べると1車線で40センチ以上ひらく計算で、片側2車線なら往復で1.6メートル以上。人ひとりぶん余計に空いているわけだから、歩道と建物の距離感も、横断歩道を渡り切るまでの歩数も変わってくる。
線の引き方も効く。日本の中央線は1本で引くのが基本で、黄色の実線は追い越しのためのはみ出しが禁止されている区間を示す標示。ここを2本線にすると、それだけで見慣れない道になってしまう。車道の外側には白い外側線、その外にガードレールかガードパイプ、縁石、細長い側溝の蓋。白線は新品ではなく、轍が乗るところだけ薄く擦れている。このあたりまで作り込んで、ようやく日本の道に近づく。
首都高そのものを走らせる『首都高バトル』のように、路面標示や標識まで含めて日本の道路を主役に据えた作品もある。舞台が道路しかないぶん、車線の幅と線の引き方が狂うと全部バレる作りだね。


毎年7万本ずつ増える電柱と、23区で8%という数字
日本の電柱は減っていない。国土交通省の資料では、いまも毎年およそ7万本のペースで増え続けている(国土交通省)。無電柱化率は道路の延長で見て東京23区が8%、大阪市が6%(2019年度末)。ロンドンやパリ、香港、シンガポールといった都市では無電柱化がすでに概成している、と同省の資料にある。
政府は今年6月2日に第3次無電柱化推進計画を決めたばかりで、5年で約1,000kmの整備完了を目標に掲げた(国土交通省)。全国の道路の長さを思えば、日本の空は当分のあいだ線だらけのまま。
ここが効いているのだと思う。電線が地中にある街で育った人にとって、空は何も無い場所。だから日本の街を組み立てても、画面の上半分がぽっかり空いてしまう。日本の風景写真は、ほぼ必ず上部を黒い線が何本も横切っていて、それが「日本らしさ」を無意識のところで支えている。電柱は影を落とし、歩道を細くし、柱の根元に標識やカーブミラー、広告板、貼り紙を連れてくる。1本立てるだけで画面の情報量が跳ね上がる、いちばん安上がりな小道具でもある。
渋谷を作り直した『Ghostwire: Tokyo』は、雨に濡れた路面への反射と、頭上を走る線の密度で街の輪郭を出していた。
自販機を置いても、密度までは足りない
自販機の数は日本自動販売システム機械工業会の集計で、2025年12月末時点の総数が3,881,700台。うち飲料自販機が2,178,800台を占める(日本自動販売システム機械工業会)。町中で目に入る頻度としては、確かに日本を代表する備品だと思う。
ただ、自販機を1台置いたところで日本にはならない。日本の街の手触りは、珍しい物が1つあることではなく、狭い面積に物が詰め込まれていることから来ている。室外機と給湯器、電気とガスのメーター、雨どい、外壁を這う配管。店先ののぼり、袖看板、コインパーキングの精算機、カラーコーン、積まれたビールケース、勝手に増えていくプランター。視線の行く先に必ず何かが置いてある状態が、いわゆる「ごちゃっとした感じ」の正体。
停まっている車も効く。国内で保有されている自動車のうち40.9%は軽自動車(2026年6月末時点・全国軽自動車協会連合会)。軽トラや軽バン、軽ワゴンが路肩と月極駐車場を埋めているのが日本の当たり前で、ここに大型のセダンやピックアップを並べると一発で遠ざかる。ナンバープレートの縦横比、白と黄色の色分けまで含めて同じ話にゃ。
『龍が如く0 誓いの場所』の神室町は、1980年代の歓楽街を狭い路地と看板の物量で押し切った街。1本の通りに詰め込まれた情報の量が、そのまま実在感になっている。



もちろん、狭い道と詰め込まれた障害物はゲームとしては遊びにくい。キャラクターを走らせる幅も、カメラを引く余地も足りなくなる。日本の街をそのまま持ってくると操作性とぶつかるので、どこまで寄せるかは作り手の判断になる。
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