AI生成NPCは物語を語れるのか ― Steam新作の3割超がAI表記、「無限の会話」が抱える限界
Steamのストアページには、いま「AI生成コンテンツの開示」という欄がある。開発者が申告した内容がそのまま買い手に見える仕組みで、ここを読むと、そのゲームが生成AIをどこに使っているのかが一行単位で分かる。理屈を語り合うより、この欄を読むほうが早いことがある。
配車運転シム『Rideshare "Stimulator"』(Steamストアページ・開発UNIGINE/販売Saber Interactive)の開示欄には、こう書かれている。
本編キャンペーンのストーリー、キャラクター、台詞は人間のライターチームが執筆しています。AIツールは音声生成と一部のローカライズに使用しています。任意の「Free Ride」モードには、AIが生成した乗客ミッションとローカライズ済みの台詞が含まれます。Free Rideモードは本編キャンペーンとは分かれており、人間が書いた物語だけを体験したいプレイヤーはスキップできます。ゲーム内には人間が作った音楽とAI生成音楽を混ぜたラジオ局も入っており、AI生成音楽を含む局はゲーム内で明示されます。
(原文は英語。日本語訳は当サイトによるもの)
読みどころは「スキップできます」の一語だと思う。物語はこちら、AIはあちら、と線を引いた上で、AI側は丸ごと外せると宣言している。作り手自身が、AIが書いた部分を"本編と同じ重みでは扱っていない"ことを、販売ページで認めている形になる。
なお、このタイトルは発売日も価格もまだ出ておらず、対応言語も英語・フランス語・ロシア語・簡体字中国語・スペイン語(ラテンアメリカ)・ドイツ語の6つで、日本語は含まれていない。
AI台詞を入れる側の言い分は、だいたい共通している。手書きでは埋めきれない量があるから、というものだ。配車ゲームで言えば、車に乗ってくる客の数は原理的に無限で、そこに全部台本を書くのは無理がある。だから生成に回す。この理屈自体は、生産管理の話としては筋が通っている。
ただ、無限であることは物語の価値ではない。
物語が効くのは、書き手が「ここでこの一言を出す」と決めたときだ。順番、間、伏せておく情報、遅れて意味が変わる台詞——面白さの正体はほとんど配置の問題で、量の問題ではない。100人の乗客がそれぞれ違う雑談をしても、その100人が何のためにそこにいるのかを誰も決めていないなら、増えたのは会話の本数だけになる。



面白いのは、玩具として割り切るなら無限は普通に強いということ。中身のない雑談を延々続けられる相手がいるのは、それはそれで遊べる。問題は、そこを「物語体験が豊かになる」と言い換えて売ろうとしたときに起きる。玩具を玩具として出すぶんには誰も怒らないにゃ。
「Teammates」で仲間NPCが声指示に反応
大手で一番手を挙げているのはUbisoftだね。2024年3月のGDCで「NEO NPC」というプロトタイプを公開し、その後、実際に遊べる形の研究プロジェクト「Teammates」を2025年11月21日に発表している。プレイヤーが声で指示を出すと、仲間キャラクターがその場で反応するというものだ。
公式の発表で、ナラティブディレクターのVirginie Mosserは「プレイヤーが物語をただ追うのではなく、自分で形づくっていると感じてほしい」と述べている。データ&AIディレクターのRémi Laboryも「プレイヤーの入力がキャラクターの反応をリアルタイムで変える。従来の開発手法では実現できない」と説明している。
ここで注意したいのは、Ubisoftが言っているのが反応の自由度であって、筋書きの生成ではないこと。声をかければ返ってくる、という部分をなめらかにする研究であって、「AIに脚本を任せる」とは言っていない。実際、キャラクターの背景や知識、喋り方の設計は人間のナラティブチームが仕込む前提で組まれている。
この線引きは地味だけど大事だと思う。生成AIが得意なのは「返す」ことで、「決める」ことではない。何を語らないでおくか、どこで明かすかを選ぶ仕事は、いまのところ人の側に残っている。
同じ生成AIでも、噛み合っている使い方はちゃんとある。KRAFTONのライフシム『inZOI』(2025年3月28日に早期アクセス開始/日本語対応)が入れている「スマートZoi」は、キャラクターの性格や状況をもとに次の行動を自分で選ばせる実験的な機能で、言語モデルは端末側で動く小規模なものを使っている。



これは物語を書かせていない。住人の振る舞いをばらけさせているだけで、プレイヤーが受け取るのは「筋書き」ではなく「予測しきれない生活」だ。ライフシムというジャンルは、そもそもプレイヤーが自分で物語を読み取る遊びだから、素材がばらつくほど効く。逆に言えば、線形の物語を売りにするゲームで同じことをやると、ばらつきはノイズにしかならない。
生成AIが物語体験を壊すかどうかは、たぶんジャンルの問題として整理したほうが早い。プレイヤーが意味を組み立てる側にいるゲームでは足しになり、書き手が意味を渡す側にいるゲームでは引き算になる。
AI開示タイトル3割、上位1%が売上94%独占
議論の温度とは別に、数字のほうも出ている。Mainframe Industriesのシュルカ・ハロ氏が2026年7月13日に公開した集計は、2023年7月から2026年7月までにSteamで配信された53,597本を全数で調べたものだ。
そこでの結果は、2026年に入ってからのリリースのうち30.8%がAI開示を付けているというもの。しかも、Steamの月間リリース本数の伸びの60〜90%がAI表記のあるタイトルによるもので、AI表記なしの新作は月およそ1,030本から1,320本に増えた程度なのに対し、AI表記ありは月530本前後まで膨らんでいる。
売れているかというと、そうでもない。同じ集計では、市場全体で上位1%のタイトルが推定売上の約94%を占めていて、市場投入からの経過期間を揃えて比べると、AI表記のあるタイトルが一定の成功ラインに届く割合は非AI作品の55%にとどまっている。ハロ氏はこれを、質の話ではなく量の話だとまとめている。
つまり、いま起きているのは「AIが物語を上手に語り始めた」ではなく、「出せる本数が増えた」なのだと思う。無限の台詞を作れる機械を手に入れて最初に増えたのが、物語ではなくリリース本数だったというのは、なかなか示唆的だにゃ。
そして冒頭のストアページに戻ると、答えらしきものはもう書いてある。人が書いたところと、機械が埋めたところ。後者は、飛ばせる。
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