2カ月で無料ゲーム13本を出したSteamパブリッシャー、正体はフランスのゲーム学校
Steamのパブリッシャーページに、無料ゲームが13本並んでいる。並びきるまでにかかったのは2026年5月から7月頭までのおよそ2カ月で、6月だけで10本以上が固まっている。粘土細工のロボットを操るツインスティックシューター、カピバラ3匹が服の下に積み重なって潜入する パズル、Joy-Conを振って戦うバレーボール——どれも見た目はきちんと作り込まれている。
r/Steamに立ったスレッドは、その一覧を眺めた人の素朴な引っかかりから始まった。
このパブリッシャーを見つけたんだけど、2カ月で11本も出している。全部無料。ゲームの見た目がやたら高品質なだけに、これが本当に正規のものなのか、それとも盗んだゲームだったり、スパイウェアみたいな怪しいものが絡んでいたりするんじゃないかと気になった。念のため言っておくと、実際に怪しいと主張しているわけじゃない。
「質が高すぎて逆に怖い」という、ちょっとねじれた不安だね。パブリッシャー名はISART DIGITAL。



返信が指したのは学校のパブリッシャー


スレッドに最初に付いた返信は、あっさりしたものだった。
説明を読むかぎり、これは学校が生徒の作ったゲームを出しているところだね。授業の課題で作ったゲームは無料で公開されるのが普通だよ
別の人も同じ結論を、もう少し具体的に補強している。
これは学校が、学生の卒業制作をパブリッシュしているやつ。Steamにはこの手のパブリッシャーがいくつかあって、Breda University of Applied SciencesやCampus ADNも同じことをしている
そして実際、疑われた当の13本のうち何本かは、ストアの短い紹介文の末尾に「このゲームはゲーム専門学校ISART Digitalの学生が卒業制作として制作しました」という一文をそのまま載せている。疑いを晴らすための材料は、最初からストアの説明欄に置いてあったことになる。読み飛ばされやすい場所ではあるけれど。
ISART Digitalは2001年に設立されたゲームと3Dアニメーション・VFXの専門学校で、パリ・ニース・モントリオールに校舎を持つ。学校側の公式プロフィールによると東京工科大学とも提携している。卒業制作は「10〜15分で遊びきれる、プロ品質のゲーム体験」を数カ月かけて作るという課題で、完成したものは無料で配布される。売らないのなら、Steamに置いても学校の方針とぶつからない。
あるコメントは、その事情を外側から言い当てていた。
間違いなく学生開発者だと思う。クラス全員が最終課題でゲームを作って、学期末にまとめてSteamへ上げた、みたいな流れじゃないかな。学校で作ったものを売るのは校則で禁止されているんだろうし
Steam側の登録情報もこの見立てとよく合う。6月に出た11本のうち7本はアプリIDが4196110から4196170まで飛び飛びの連番で、同じ日にまとめて登録されたことがうかがえる。去年出た『Wires And Whiskers』にいたっては、開発者欄に会社名ではなく学生10人の個人名がそのまま並んでいた。
そのうちの1本『WOBBLY HEIST』は、カピバラ3匹が1着のコートの中で縦に積み重なって人間のふりをし、ファッションイベントに忍び込んで宝石を盗むステルスパズル。ばらけてスイッチを押しに行くと、コートの中身が減って怪しまれる。学生の課題という前提を知らずに眺めたら、小規模スタジオの新作だと思ってもおかしくない作りだね。
話題は途中から「ほかにもこういう学校があるよ」という方向へ流れていった。
DigiPen Institute of Technologyにも良いゲームがあるよ
このリンクが貼られたあと、スレッドで一番反応を集めたのがこの一言。
豆知識:Portalは元々、その学校の学生プロジェクトとして始まったんだ。Valveがそれを見て、チームをその場で採用した
これは事実として裏が取れる。2005年にDigiPenの学生チームが卒業制作として作った『Narbacular Drop』が、壁や床に2つのポータルを開けて移動するパズルゲームで、DigiPenの公式ページにも学生作品として今なお掲載されている。学校のキャリアデーで見たValveがチームを招き、そのまま雇い入れて作り直させたものが『Portal』になった。ちなみにDigiPenのSteamパブリッシャーページの説明文も「学生のゲームをSteamで公開するための公式ページ」と明記されている。韓国のJungle Game Labも同じ形でページを持っていて、こうした学校パブリッシャーはSteamの一角にちゃんと生態系を作っている。
リンクを受け取ったスレ主の反応も素直だった。
リンクありがとう。あっちにもすごいゲームがいくつかあるみたいだ
一方で、話が学校に落ち着いたあとも別方向の疑いは残っていた。
AIならあり得るだろうね
これに対しては、まぜっかえすような短い返しが飛んでいる。
はい、今日ぶんの的外れなAI認定が出ました
もう少し腰を据えて反論した人もいた。
高品質だと言うなら、そこは逆だと思う。怪しいものを高品質なプロジェクトにわざわざ隠す人はあまりいない。Steamでスパイウェアが見つかったゲームは、どれも低品質な量産品ばかりだった
さらに、本当の量産品がどういう見た目をしているかを引き合いに出す声も。
本当にひどいやつが見たいなら、これから出る新作の一覧を眺めてみるといい。ひとりの開発者から十数本のAIゲームがまとめて出てくる。AIはカバーアートにしか使っていないと書いてあるけどね
「短期間に大量」という現象そのものは、確かにSteamで警戒される形をしている。ただ、その中身が量産品なのか授業の成果物なのかは、リリース本数だけでは区別できない。同じ「1カ月で11本」でも、片方は1人が使い回しで積み上げたもので、もう片方は11チームが数カ月かけて別々に作ったものだった、というだけの話だね。
『Candellum』は402件中388件が好評
疑われた側の評判のほうも見ておきたい。5月に出た『Candellum』は、火を投げて敵に当てると自分の灯が消え、蝋を集めて燃え直すというトップダウンのアクション。402件のレビューのうち388件が好評で、比率にして96%、「非常に好評」に達している。学生の卒業制作としては相当な数字にゃ。
カピバラの『WOBBLY HEIST』も54件中52件が好評。粘土とポーセリンの世界を進む『Shards』、盾を持たずに敵の弾を打ち返して戦う『Echoes of Above』あたりも、件数こそ多くないもののおおむね好意的に受け止められている。
日本語の話をすると、13本のうち対応しているのは『The Light that Binds Us』1本だけ。光で影を作り、その影を足場に変えて進むパズルアドベンチャーで、ストアページの言語欄を見ると日本語はインターフェースと字幕のみで、音声は英語・フランス語・簡体字中国語に付いている。残る12本は英語とフランス語が中心だね。

スレ主は最終的に、投稿の冒頭に追記を足してこう締めていた。
追記:みんなありがとう、疑問は解決した。それでもこのスレはこのまま残しておく。ちゃんとした、見た目もいいゲームの宣伝になるだろうから
疑いから始まった投稿が、そのまま13本の無料ゲームの紹介欄に化けた。ISART DIGITALのパブリッシャーページに並ぶ16本は、いずれも価格の欄に「無料」とだけ書かれている。
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