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『Papers, Please』の不便なUIは設計だった―Redditの議論と、スマホ版で消えた机

投稿: 2026/09/07by tobariware9分で読めます
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机が狭い。書類は重なって下のものが見えない。ルールブックは開くだけで一手間かかる。そのうえ数日おきに、確認しなければならない項目が1つずつ増えていく。

ふつうなら、この4行はそのまま酷評として通る。ところがr/gamingに立った投稿は、同じ4行を「だからこの作品は成立している」という結論へ向けて並べた。名指しされたのは2013年の『Papers, Please』。時間に追われながら気の滅入る役所仕事をこなす立場なのだから、疲れて有効期限を見落とすのが正しい――もし不備を全部ハイライトして、ルールを常時画面に出しておいたら、遊びやすくはなるが手応えは確実に落ちる。そういう言い分だった。

検問所とブース、机の3領域で照合する

舞台は共産主義国アルストツカ。隣国コレチアとの6年間の戦争が終わり、国境の町グレスティンの検問所が再び開く。プレイヤーはそこに配属された入国審査官で、パスポートや入国許可証を突き合わせ、密輸業者やスパイを見つけ出す役回りになる。

画面は上から順に、検問所・ブース・机の3領域に分かれていて、この3つは常に見えている。仕事の中身は照合作業そのもの。名前が一致しているか、期限が切れていないか、印章は有効か。ルールは毎朝の通達で書き換えられ、昨日まで不要だった書類が今日は必須になる。それを覚えておくための資料もまた、机に重なる紙の1枚でしかない。

見落とせば警告が飛び、重なれば給料から引かれる。そして1日の終わりには家賃と食費と暖房費の請求が来て、どれを払わないかを自分で選ぶことになる。息子の誕生日が2日後だと画面が告げてくるのも、この計算の最中だにゃ。エンディングは20種類あり、そこへ至る道筋は日々の細かい判断の積み重ねで決まる。

Steamでの価格は通常1,200円。Windows/Mac/Linuxに対応し、対応言語は日本語を含む15言語だが、チェックが入っているのはインターフェイスの列だけで、フル音声と字幕の列は全言語とも空欄になっている。セリフがすべて文字で出る作りなので、そこに列が立たないのも道理。レビューは39,634件のうち97%が好評という、13年前の作品としては異様に高い水準を保っている。

カウンター越しに相手の事情を聞き、渡すものを自分で決める――という骨組みだけを取り出した新作も出ていて、剣を見繕う武器屋シミュレーションという形で好評を集めていた。

📄 身の上話を聞いて剣を見繕う『What Makes a Hero』―『Papers, Please』系の武器屋シムがRedditで好評

スレッドで最初に伸びたのは、まったく別のゲームの名前だった。カプコンが2002年9月12日にXbox向けへ出した『鉄騎』。専用コントローラが同梱され、それ以外の操作手段が存在しないという、家庭用機の歴史でもかなり特殊な位置にある1本。

ポッドキャストで『鉄騎』の話をしている人がいた。あれは専用のコントローラでしか遊べない2002年のXboxのメカ操縦ゲームで、入力点は44個。ボタンだけじゃなく、スティック2本、スロットル、無線のチャンネルダイヤル、スイッチ5個、脱出ボタン、そしてフットペダル3本まで付いている。

投稿を読んで自分もまったく同じことを考えたんだけど、もう先に書かれていた。思っていたよりずっと有名なゲームだったらしい。

あの周辺機器を使うゲームが他に無いことを考えれば、有名になるのは当然だと思う。

有名だからといって、誰でも遊べたわけではない。ゲームショップを営む友人の話として、こんな書き込みも並んだ。

友人の店に、誰かが付属品ごと『鉄騎』を下取りに持ち込んできた。手放せるまでの1週間、二人でずっとあれを動かそうとしていたと思う。手を出したゲームの中では間違いなく、いちばん複雑で、初心者にとっていちばん壁が高かった。

ここで話は続編へ飛ぶ。2012年6月21日に出た『重鉄騎』は、あの巨大なコントローラを捨ててKinectに操作を預けた作品で、開発を担当したのはフロム・ソフトウェアだった。

Xbox 360で出た続編はKinectのゲームじゃなかったっけ。もしそうなら、あれの分かりにくさは「Kinectがまったく反応しない」という種類のものだった。

その通り、動かなかった。しかもあれを作ったのはフロム・ソフトウェアだよ。

ここが分かれ目になる。同じ「操作しづらい」でも、44個の入力を覚えさせる不便と、入力が意図どおり通らない不便は別物だという整理が、この応酬でようやく言葉になった。前者は覚えれば自分の腕になるが、後者は何度やっても腕にならない。ちなみに機体そのものへの愛着は別腹で、シャーマン戦車を二足歩行に改造したような造形と、実車のパンター戦車さながらにクランクを回して始動させる手順を挙げて惜しむ声もあった。

流れが変わったのは、不便さではなく「頭の使い方を組み替えさせるゲーム」という括りが持ち出されてからだにゃ。

ゲームのロジックへの向き合い方を根本から考え直させてくれる作品が好きだ。Factorio、Terraria、Minecraft、ダークソウル、ロケットリーグ。どれも表面上は単純なのに、コミュニティが何年もかけて別々の考え方を育ててきた。

そこへ挙がった『Portal』が、思わぬ形で議論を二分した。

『Portal』は、これまでのFPSで身に付いた本能のすべてに寄り添いながら、同時に真っ向から逆らってくる。見事なものだと思う。

正直なところ、自分は困惑している。素晴らしいゲームなのは間違いないけど、本能とぶつかった覚えがまったく無い。あれ以前にシューターは山ほど遊んでいたのに。

撃ってくる相手を撃ち返す、という本能とぶつかるという話じゃないかな。

いや、あれは「上を見上げさせる」ゲームだよ。

そもそも、シューターじゃないゲームで何かを撃とうと思ったこと自体が無かった。

擁護側の説明も具体的だった。敵らしい敵はいないのに移動の感覚だけが作り替えられていく、という指摘に対し、「あれは初めてゲームに触れる人へ勧められる筆頭であって、直感的で磨き込まれているのが理由だ」と返す声が続く。

どのステージも基本的には概念のチュートリアルになっていて、解けたときに自分が賢くなった気がする段階の踏ませ方をしてくる。あそこまで巧みなレベル設計は、任天堂の内製作品くらいでしか見た覚えが無い。

つまり同じ作品を、片方は「常識を壊してくる」と読み、もう片方は「壊れないように手を引いてくれる」と読んでいる。摩擦を面白さと呼ぶか、単なる分かりにくさと呼ぶかは、遊ぶ側が何を積んできたかで裏返る。案内の声が多すぎるという不満が、結局はヒント頻度を切れる設定の有無に着地した例もあったにゃ。

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Factorioの名前を挙げた書き込みも、同じ話を別の角度から言っていた。生産を拡大した分だけ汚染が広がり、その汚染が敵の進化速度を決める。自分の効率化が、そのまま自分への圧力に変わる仕組みが刺さったという。

スマホ版はドラッグ&ドロップを廃止、移植に8か月

面白いのは、「もっと親切なUIの『Papers, Please』」が実際に存在することだにゃ。作者のLucas Popeは2022年8月にiOS/Android版を出しており、そこでは机とドラッグ&ドロップが丸ごと消えている。開発記録によれば、移植には約8か月かかった。

縦持ちの画面に3領域を全部収めようとすると、書類を並べる余白と読みやすさが真正面からぶつかる。彼が選んだのは読みやすさで、机の代わりに、全書類を大きく表示して横にスワイプする「カルーセル」と、下部に一覧を並べる「ラック」を置いた。本人の開発ログにはこう書かれている。

このインターフェースを考えたとき、最初に心配したのはゲーム性を変えすぎることだった。2次元の机に書類を並べるのではなく、1枚ずつほぼ孤立した状態で眺めながらスワイプするだけになってしまう。

本来ならそこで引き返すべき合図だったけれど、この移植には血が必要だと分かっていた。実際に試してみたら、書類管理を失って動脈から噴き出すと思っていたものは、軽い擦り傷程度で済んだ。

ただし、消したものと同じくらい、残したものがはっきりしている。書類は自動でラックに収まらず、一度タップしないと手元に来ない。「はいはい、受け取りますよ」という最初の能動的な操作を失いたくなかったから、という理由だ。指名手配の3人の顔を壁に貼る操作も自動化されず、毎朝プレイヤーがピンを刺す仕様になった。デスクトップ版の意図を保つため、と明記されている。スタンプに至っては、代替案をいくつも試したうえで、プルチェーンを引いて一時的な机を開く方式に落ち着いた。押した瞬間に判が落ちる手触りを、どうしても手放したくなかったらしい。

摩擦を全部削るのではなく、削っていいものと削ってはいけないものを1つずつ選り分ける。r/gamingのスレッドが「使いにくいUIこそ正体」と言い切ったその作業を、作者は9年遅れで、机を捨てるという最も乱暴な形で実演していたことになる。

机が無くなっても、指名手配の顔を壁に貼るピンだけは、いまも自分の手で刺すことになっている。

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