Steamで「体験版のはずが製品版」謎の無料ゲーム、答えはライセンス履歴にあった
テキストベースのRPGを探していて、1本の作品に行き当たった。体験版があったので、スマートフォンからライブラリに追加だけしておく。翌日、PCでそれをダウンロードして遊びはじめた——ここまではよくある流れ。おかしかったのは、3時間遊んでも「これは体験版です」という表示がどこにも出てこなかったことだね。
不思議に思った投稿者がストアページを開いて製品版を買おうとすると、そこには「すでに所有しています」という趣旨の一文。Reddit の r/Steam に立った「事故で無料のゲームが手に入ってしまった」というスレッドは、そのまま一日のトップに上がった。原因の見立てを書き込む人、反証を返す人、まったく別の話に流れていく人。最終的に答えを出したのは、ほとんどの人が普段開かないアカウントページだった。
『Roadwarden』は英語のみのテキストRPG
舞台になったのは『Roadwarden』。荒れた半島を旅する使者となって町や人を渡り歩く、イラスト付きのテキストRPGで、Steamストアページによれば配信は2022年9月、価格は1,120円。開発は Moral Anxiety Studio、販売は Assemble Entertainment で、Windows・Mac・Linux に対応している。対応言語は英語のみ——インターフェースも音声も字幕も英語で、日本語の表記は無い。キャンペーンは30時間級とうたわれていて、3時間遊んでも「まだ体験版の範囲かもしれない」と思える長さではある。
体験版は2019年12月から公開されていて、製品版とは別のアプリとして扱われている。これは特別な作りではなく、Steamの体験版は仕様として製品版とは別のApp IDを持つ。だからライブラリには本編と体験版が別々の項目として並ぶ。投稿者が引っかかったのもそこだった。
最初に付いた返信は、わりと冷たい。
いや、無料で手に入ったわけじゃない。この作品はいくつものバンドルに入ってきた常連だから、何年も前にライセンスを有効化したのを忘れているだけだと思う。
これに投稿者が食い下がる。
でも、それなら体験版はどうしてライブラリに出てこなかったんだろう。ライブラリの検索で1件しか出なかった。本編を持っているなら『Roadwarden』と『Roadwarden Demo』の2つが並ぶはずでは。
言い分としては筋が通っている。実際、この「1件しか出てこない」が謎を長引かせた。

2024年7月の更新で体験版の扱いが変わった

ここで前提になるのが、Valve が2024年7月に出した体験版まわりの更新。公式のアナウンスには、こんな変更が並んでいる。インストールせずに「ライブラリに追加」だけできるボタンが付いたこと。体験版をアンインストールすると、ライブラリからも自動的に消えること。右クリックから「管理 > アカウントから削除」で明示的に外せること。そして、本編をすでに所有していても体験版をインストールできるようになったこと。
投稿者がスマートフォンから押したのは、このとき追加された「ライブラリに追加」のボタンだ。
スレッドには、この点について別の見方も出ていた。
作品によっては、本編をすでに持っていると体験版をライブラリに追加できない。Portalや『The Stanley Parable』みたいに体験版が中身の違う別物になっている作品だと、本編を買ったあとで体験版を遊ぶ手段が普通の方法では無くなってしまう。
体験版が独立した作品として作られていた時代を知っている人ならではの指摘だけど、少なくとも公式の説明としては、2024年の更新で「本編を所有していても体験版はインストールできる」と書かれている。ライブラリに体験版の項目が現れなかった理由がこの仕様のどこにあるのかまでは、公式の記述からは断定できない。
流れを変えたのは、原因ではなく確認方法を示した書き込みだった。
購入履歴ではなく、ライセンスの有効化履歴を確認してみて。ただし「削除」や高度な非表示を使っていると、購入履歴にも有効化履歴にも妙な影響が出る。かなり癖のある機能だから。
ここで何が有効化されているか見られる。1ページ目に無ければ、もっと前に有効化している可能性が高い。サポートページのゲーム一覧から名前で検索すれば、いつ有効化したかが出てくる。
Steamのアカウントページにある「ライセンスとプロダクトキーの有効化」の一覧は、購入履歴とは別物で、バンドル経由・キー入力・無料配布の受け取りなど、金銭のやり取りとして残らない取得も含めて並ぶ。数年ぶんの行がそのまま積み上がっているので、ほとんどの人は買ったとき以外に開かない。
そして、投稿者が確認した結果がこれ。
ありがとう、これで謎が解けた。何か月も前に自分で買っていて、記憶から消えていた。
その通りだった。バンドルですらなく、直接買っていたものを自分の記憶から消していた。
スレッドの最初に付いた冷たい返信は、動機の部分(バンドル常連説)こそ外していたけれど、「昔の自分が手に入れていて忘れている」という筋は当たっていたことになる。ライブラリが数百本を超えると、買った記憶そのものが消える。無料配布の受け取りボタンを押した記憶なら、なおさら残らないと思う。
原因が判明したあとのスレッドは、投稿に写り込んでいたPCの構成の話へ丸ごと流れていく。
そんなに積んで何に使うの。
最近のメモリの値段、知ってる?
3Dレンダリングや制作系のソフトを動かすならともかく、ゲーム用途だと完全に無駄だと思う。
常にタブを100〜150枚開いていて、YouTubeも表計算も資料も入っていると、あっという間に積み上がる。
「自分も96GB積んでる」と重ねる人まで出てきて、元の話題からはだいぶ遠い。ただ、その脇道の途中に、最初の疑問と同じ形をした体験談がひとつ落ちていた。
自分にも一度あった。無料開放の週末にダウンロードして、週末が終わったあともなぜかアクセスが切れなかった。深く考えないまま遊んでいたけれど、結局アンインストールした。新しく入れ直したらまだ遊べるのか、少し気になっている。
こちらは公式に仕様が書かれている。無料開放の週末が終わると無料パッケージはストアページから自動的に外れ、参加した人のライブラリには作品が残り続けるものの、できるのはアンインストールだけで、遊び続けるには購入が必要——とSteamworks の資料にある。ライブラリに名前が残っていることと、起動できることは別なんだね。
体験版と製品版は別物、ライブラリに残る条件も別、そして購入履歴と有効化履歴もまた別。3つの「別」が重なった結果、3時間ぶん本編を遊んでから「これは無料でもらったものかもしれない」と思い込む人が出た。答えが載っていたのは、アカウント設定の奥にある、普段は誰も開かない一覧ページだった。
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