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敵も味方も名前が出てこない ― RPGが“用語集”を標準装備し始めた

投稿: 2026/07/26by 編集部6分で読めます
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大作RPGを30時間ほど遊んだあと、「で、あの銀髪の人って結局だれだったっけ」となる瞬間があるにゃ。顔は浮かぶ。所属も、たぶん敵側だったのも分かる。名前だけが出てこない。

これ、集中力の問題として片付けられがちだけど、記憶研究のほうではけっこう昔から知られている現象だったりする。そして近年のRPGは、それを前提にした機能をゲームの中に積み始めている。

「Mr.ベイカー」より「パン屋さん」のほうが強い

1987年、英国心理学会の学術誌 British Journal of Psychology に「Putting names to faces」という論文が載った(Wiley Online Library)。見知らぬ顔16人ぶんに、名字と職業をセットで覚えてもらう実験だ。

結果は、名字のほうが職業よりはっきり思い出しにくかった。しかも面白いのは、「Baker(ベイカー)」という同じ音の単語でも、それが名字だと覚えにくく、職業(パン屋)だと覚えやすいという点。同じ文字列なのに、ラベルの種類が違うだけで残り方が変わる。これがのちに「ベイカー・ベイカー・パラドックス」と呼ばれるようになったやつだにゃ。

理屈としては、「パン屋」は生地をこねる手つきや焼けたパンの匂いといった連想の束につながっているのに対し、「ベイカーさん」はどこにも接続されない孤立した記号として置かれる、ということらしい。加齢によって固有名詞の想起がとくに落ちやすいことも、Cohen と Faulkner が1986年に固有名詞の想起と年齢差を扱った研究で報告している。

ここでRPGを思い出してほしい。ファンタジー作品の登場人物名は、たいてい実在しない造語だ。連想の足場がゼロの固有名詞が、国名・組織名・魔法体系の名前と一緒に、数十個まとめて投げ込まれる。覚えられないほうが自然にゃんだよね。

1500年ぶんの歴史を、ムービーの途中でも引ける

その前提に真正面から答えたのが『FINAL FANTASY XVI』の「アクティブタイムロア」だった。

PlayStation.Blogに掲載された先行プレイ記事では、ゲーム中のどのタイミングでも——ムービーの最中であっても——一時停止して、いま画面に出ている人物や国の歴史、出来事の解説を呼び出せる機能として紹介されている。ローカライズディレクターの Michael-Christopher Koji Fox は「物語に影響する1500年以上さかのぼる歴史を作った」と語り、そのうえで「数百のエントリーがある」「無視して遊んでもいい」とも述べている(PlayStation.Blog)。

大事なのは「攻略サイトを開かせない」ことだと思う。名前が出てこないたびにブラウザへ逃げると、その数十秒でシーンの温度が下がる。ゲームの中で完結するから意味があるにゃ。

FF14は「だいじなもの」に辞書を入れた

『FINAL FANTASY XIV』の場合は、2022年4月19日のパッチ6.1で実装された「愛用の見聞録」がそれにあたる。

公式のパッチノートには、物語の進行にあわせて人物や用語の情報が追加されていく機能で、パッチ6.1のメインクエストを進めることで解放され、だいじなものに追加される、と書かれている(The Lodestone)。10年以上ぶんの物語が積み上がったタイトルで、あとから追いついた人が置いていかれないようにする装備、という位置づけだ。

見聞録が「だいじなもの」に入っているのが個人的にはちょっと好きにゃ。ポーションや鍵と同じ棚に、記憶の補助輪が並んでいる。

神々の名前は、会話しながら引く

2025年2月18日に発売された『Avowed』も同じ方向を向いている。

Xbox Wireのインタビューで、ゲームディレクターの Carrie Patel は、伝承の用語や神々の名前をその場で引ける「グロッサリー・ツールチップ」について、体験を脱線させずにプレイヤーを世界観に慣れさせるための仕組みだと説明している。さらに、序盤の分かりやすさについては「Microsoftのユーザーリサーチ部門を通じて数時間規模のプレイテストを何度も行った」とも語っていて、最初の数時間の理解しやすさをかなり本気で調整したことがうかがえる(Xbox Wire)。

『Pillars of Eternity』の世界を引き継ぐ以上、前提知識の差は絶対に出る。そこを「予習してきてね」で済ませず、会話の途中に引き出しを付けた、という判断だにゃ。

タイトル機能名実装
FINAL FANTASY XVIアクティブタイムロア製品版に標準搭載
FINAL FANTASY XIV愛用の見聞録2022年4月19日 パッチ6.1
Avowedグロッサリー・ツールチップ2025年2月18日 発売時から

覚えられないのは、こっちの落ち度じゃない

三者に共通しているのは、「覚えていること」をプレイの前提から外した点だと思う。用語集は物語を薄くする装置じゃなくて、むしろ濃い物語を書くための土台になっている。1500年ぶんの歴史を書けるのは、忘れても引き直せるからだ。

固有名詞は、そもそも脳にとって引っかかりの少ない情報にゃ。それが40年前に実験で示されていて、いまゲーム側がその穴を埋めにきている。名前が出てこないのを自分の衰えのせいにする前に、まずメニューを開いてみるといい。最近のRPGなら、たいてい何かしら載っているはずだにゃ。

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